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心の落ち着く場所「明堂」を家の中に発見する

建築家の佐久川一さんは、デイパックを背負い片手に大きなスケッチブックをもって、約束の時刻に石畳の坂をくだってきた。
「風水は、都市計画のフィールドの中で出会った思想でした。最近はやっている風水とは違う。これまで培われてきた生活術が、戦後疎んじられ失われてしまった。しかし、それが閉塞した時代の中で見直されつつあります」
家相を考えるにしても、物理的にではなく、精神性をもっと重視したいという。
「間取りは、光、風、水、土などの環境と深くかかわっています。住まうことによって人間としての幸福が感じられるような家にしたい。どう生きるかを自分たちでもっと考えることが必要です。家をそんな場にしたい」

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佐久川さんは、1978年には「風水の家」を設計している。
「あの時代に、友人がクーラーや機械にできるだけ頼らない家をつくりたがった。そこで、フィールドでみてきたことを、―つの場所に当てはめるとどうなるか試してみたんです」 自然環境を生かし、家の中に風を導いてめぐらせ、屋根に断熱効果のる土を盛った。
「住まいと生活哲学の関係を、理解できない人も多いのではないですか」 「家をつくるのは人生の大切な転換期ですから、設計に当たって、依頼主と家族が、健康、環境、ライフスタイルなど、なにに興味があるか知るようにしています。
それを手掛かりにどんな家にしたいのか考え、生活哲学の必要性を依頼主と話し合う。そして、気持ちの落ち着く場所、風水でいう明堂をどう発見するかですね」

佐久川さんは、そういいながらスケッチブックを広げた。間取りのほかに、石畳道周辺の写真やスケッチがあった。すぐ近くのMさん宅を設計するとき、周辺環境を丹念に見て歩いた跡が感じられる。
「点在するカー(泉井)のまわりを歩いて、石の留め方やスケールを学び、スロープとステップをうまくいかした石畳を参考に、家の周囲の小径をつくりました。この辺で、一番元気なのは大アカギです。この元気を部屋の配置にいかしました」 アカギの絵の上に、丸で囲まれた部屋名が配置されている。大きく張り出した枝の先端には、テラスの文字があった。

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佐久川さんにMさん宅へ案内してもらった。完成してまだ1年というユニークな外観の新居は、斜面を利用してつくられた3階建てで、最上階はリビングとキッチンが一緒になったスペース、その下が寝室、1階は車庫だった。各階に外と直接つながった入口がある。
最上階のフロアーでは、玄関に立つとテラスのむこうに広がる空まで見えてしまう。M夫人が済心地を話してくれた。

この開放感がなんともいえないでしょう。風がうまく抜けるからか、空気に澱みがない。部屋に居ながらにして自然を感じられます」
「ちょっと下の階もみせてもらいましょう」
佐久川さんに連れられて階段をおりる。床下は収納庫にも使える空間になっていた。引き戸をあけるとさわやかな風があふれ、床の扉を開くと涼しい風が湧いた。下の車庫から入った風が、あちらこちら巡り流れて上へ昇ってゆく設計なのだ。
2階の玄関に2畳ほどの畳敷きがあった。 天井は竹でおおわれ、趣がある空間。

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「いずれエレベーターが必要になった時のスペースを、こんな風に利用しているんです」
金武町の石畳は、ゆるい傾斜のついた庭の小径にいかされていた。
時たまバーベキューをするというテラスや屋根にある展望台からの眺望は、すばらしかった。慶良間諸島、落日、那覇の夜景、星空…遠景の美しさが身近に感じられる。しかし、その内側の部屋もひどく居心地がよかった。
「この部屋は、明堂にあたりますね」
佐久川さんはさらりといった。

OKINAWAN Spirits&Spirit カラカラ 2002年夏創刊4号
特集;島の暮らしを支える 沖縄の風水

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