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沖縄の風土に溶け合う建築
暮らしや社会、風土に寄り添うものづくりとは?建築が果たす役割とは?
建築士の視点で捉えた、自立した社会を作り出す精神をシーサー夫婦がインタビュー。

ちゅくいむじゅくい

サンラー
「沖縄県立博物館・美術館で9月に開催された県民キュレーター展『ちゅくいむじゅくい 風土と建築』の実行委員会のメンバーだった建築士の佐久川さんに展覧会の内容をお聞きしたいのですが?」
佐久川
「沖縄県立博物館・美術館初の一般公募による展覧会として開催されました。県民が主体的に美術館の企画にかかわる機会を設けようと、県民キュレーター展が設定され、私達の企画が採用されたんです。『ちゅくいむじゅくい』とは、創る(ちゅくい)と造る(むじゅくい)を合わせた、創造(creation)を意味する沖縄語で、これまであまり表に出てきたことはありませんでした。暮らしと社会に寄り添うものづくりの世界を表していますが、使い方も解釈も場面によって異なり、広い意味で捉えることができます。自らの知恵を絞って何かを生み出し、自活できる精神だと私は解釈しています。展覧会名に付け、今の時代に投げかけてみようと思いま した」

サンラー
「あまり聞きなれない言葉ですが、昔から使われていたものを引き出してきたんですね」
佐久川
「『ちゅくいむじゅくい』はもともと農作物を表す言葉でもあったようです。農耕文化が培ってきたものをフィードバックさせて、どうすれば自活していけるのか、真の豊かさとは何だろうかと問いかけてみたかったんです。展示は集落の発生から戦前、戦後、復帰の激動期を建築の視点で検証したり、ユイマールに見られる地域コミュニティの喪失と再生の可能性を探っています。歴史を踏まえ、現在、未来へと思索してほしかったんです」
サンラー
「『ユイマール』の展示で『ユイとワップー』を紹介していましたが、『ユイ』の対になる『ワップー』はあまり聞きなれない言葉ですね」
佐久川
「家づくりはかつては相互扶助で行われ、資材の調達に始まりすべてが助け合いでした。周りが協力しあい、誰もがみな家を建てることができたんです。その一方で、どう分配するのか、おすそ分けの知恵も同時に必要だったんですね。『ワップー』とは分配のことですが、言葉が使われなくなったということは、その考えが薄れてきた証拠でもあります。物事を生み出し、分配していくことは社会にとって普遍的なことなので、今こそ、この思想を時代が求めているはずなのです」

ちゅくいむじゅくい

サンラー
「展示物『竹のトンネル~竜宮のこみち~』は佐久川さんが企画されましたが、どんな思いを込めたんですか?」
佐久川
「これまでは石油エネルギーに頼ってきた時代でしたが、資源の終わりが見えてきた今、自分達はどう生きていくのか見直す必要があります。私は以前から植物に目を向けていたので、竹の籠なら誰でも作ることができる点に着目し、竹を素材にした構造物に挑戦するワークショップを行うことにしました。沖縄では活躍の場が少ない竹ですが、アジア一帯では竹を利用した大きな構造物も多く見られます。この展示会場では海と集落をつなぐトンネルを作りました。集落は防風林であるアダンの茂みに守られ、トンネルをくぐり抜けるとその向こうに海が広がるのです。トンネルの先にあるのは未来です。この展示では、アダンの茂みを象徴化し、竹で表現しました。トンネルの先に海を見た瞬間を経験してほしいとオブジェの先に海の映像を流しています。今は海岸を削ってホテルを建て、ホテルの窓から海を眺めていますが、海はもっと神聖なものです。自然と共生してきたかつての暮らし、これから社会が向かうべき方向をイメージしてほしいですね」
カマド
「佐久川さんは以前、竹を扱った住宅を首里の町に設計したことがありましたね?」
佐久川
「十年前、首里城の麓に住宅を設計しました。竹製のフェンスを外観にあしらい、屋根裏のしっくい壁に竹をはめ込み、照明や建具にもふんだんに竹を使いました。さらに、風土に溶け合う住宅になるよう心がけました。」

カマド
「首里の風土とは佐久川さんにとって何だったんでしょうか?」
佐久川
「首里金城町の町並みを設計に反映しようと、町を歩き回りました。金城町を象徴する細い路地を五十五坪の敷地の中で立体化させることにしたんです。駐車場のある地階から1階、2階、屋根まで住宅を囲むように路地を巡らせたんですよ。高低差のある立地でしたが、スロープと段をうまく組み合わせて、緩やかな勾配を住宅の周りに張り巡らせました。金城町にあるカー(井戸)の広場がこの敷地によく似ていたので、そのスケール感にヒントを得て、快適に行き来できる段差やスロープの長さを算出しました。また、崖地に生えている金城町のアカギのバランス軸も大いに参考にしたんです。ドンと生えているようで、繊細な部分もあり、バランス軸のエッセンスをくみ取ろうとしましたね」

カマド
「首里は都市景観形成地区に指定されていますが、その中で工夫された点は何ですか?」
佐久川
「赤瓦を屋根に使用するよう推奨されていました。施主は屋上で植物を育てたいという要望があったので、それにも応えることができるよう、赤瓦を立てて土止めに使い、下から見上げると、赤瓦が並んでいるように仕上げました」
サンラー・カマド
「風土と溶け合う『ちゅくいむじゅくい』の精神がここにも反映されていたんですね」

インタビュー掲載誌:2010年10月発行 季刊 モモト vol.4

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