- トップページ
- > エッセイ・論考
福木の話
アトリエ ガィィの事務所のすぐ裏はちょっとした森になっていてお墓が並んでいる。古くからのお墓があるからそのまわりに自然が残っている。沖縄のあちこちでよく見られる光景だ。隆起さんご礁地形の崖のふちに掘られた横穴式や亀甲墓など新旧さまざま。一つ一つの墓は濃い緑で被われている。その一角に福木の巨木がある。10数本、緑濃い塊になっている。影が濃いので全体は緑というより黒い。大きいのは胴回りが1.5メートルもある。
どれだけの時を経たのだろう。200年、いや300年?数年前まで台風の時期になると大きなコウモリがこの木に群がっていた。ギャーガ・・ギャーガ・・大声で鳴いてあたりを旋回していた。この頃見かけなくなったけど、どうしたのだろう。このあたりはここ数年の間にアパートやマンションが建ち並び、きっと居心地が悪くなったのだろう。お墓、老木、大コウモリ、と連想すれば、にわかに薄黒い雲がかかったように暗い印象をもったかもしれません。この地は今、夜も光こうと電気がついている住宅地。大コウモリが巣くう環境ではなくなったのだろう。宅地や公園などまちづくり計画の際にこうした生き物達の生息をもっと考えるべきではないか。ややもすると、お墓と福木の老木が暗い印象を与えるからといって、街の印象を明るくするために刈り取ってしまったほうが良いと思っている人も多いかもしれない。福木も昔のように身近な有用木ではなくなっている。実が落ちてその後片付けが大変だといって刈取られてしまったケースがどれほど多くあっただろう。
近年、ライフスタイルの変化はそれと気がつかないうちに自然を遠ざけてしまっている。
そうしていま、私達は招かれざる気象異変にさらされている。
もういちど、あのふくよかに育っているふくぎに話を戻そう。あの福木は屋敷囲いのふくぎとちがって人手が入ってないためか、伸びやかに育った感じがする。通常なら横に伸びてくる枝は刈り取られてしまうのだが、腹部が出っ張っていて表情も豊かに見える。横に太っている福木はあまり見かけない。つやのある葉の茂みの奥は深い藍色を漂わせる。
深くなるほどに濃い藍色に染まる海のように。葉の先端はやわらかい赤い新芽が生える。 次第に色づいて若葉になり、そしてだんだん色濃く染まっていく。色の変化を観るのも楽しい。色、つや、形を整えて天に向かい伸びる幹。福の神の使いのような勇姿は天の恵みを宿しているに違いない。もう一つの見所は柿のような小さな黄金色の実。秋になるとあたり一面に実を落とす。掃除が大変だといって嫌われる向きもあるが、黄金色に実の輝きを見ると気が晴れる。それだけでも幸いだ。知っての通り樹皮は染物の原料、晴れやかな黄金色だ。
ふくぎの苗木作り
数年前、お墓の周りに落ちていた福木の実を拾い集めて、苗床を作った。
土を入れたりんご箱に実をおいて土をかぶせておく。水をやり、一月ほどで芽を出し始める。柔らかい新芽が力強く突き出てくる。楕円形の二枚の葉が開いていく様子を日を追って眺めるのも楽しい。苗床は今その幼木が群生している。成長の遅い新芽の鮮やかな色合いが美しい。この苗床、どこか植える場所があるといいのだが・・・
後々役に立つ植物を身近に感じられるといい。有用な植物を育て、鉢植えにして一般の観葉植物と一緒に庭やベランダに置いてみるのもいいと思う。日々、水をやりながらその活力をもらい、ふくよかな気分になれる。強く,温かく,優しい『さいわいの木』をあなたも身近に感じてみませんか。
ふくぎの苗木を欲しい人はアトリエガィィ(佐久川)まで連絡下さい。