風水の家
- 建築地
- 沖縄県那覇市天久
- 用途地目
- 住宅
- 施工
- 1978年
アトリエガィィのデビュー作
設計要旨
風を呼び込むゾーニング
敷地の南側、公民館のひろばから北の方向に風と光の軸を設定。この軸線にそって南からアマハジを抱いた大広間、食堂台所を配置、大勢の人達が出入りし、集まれる柔軟な一つながりの空間をつくりだす。風を想定した軸方向の流れの中心に吹き抜けをとって、階段を配置し、軸の左右に個室をもってくる。広間の屋上は風のテラスとなって吹抜けの高窓を通して風を引き入れ、光をとり入れる。屋根裏のふところを大きくとり、豊かな風の吹き抜けとなって、空気の流れを想定した。
当然のように部屋の間をうまく外気が通り抜けていくことが考えられよう。
敷地のせまい市街地の一角であっても、快い風が部屋の隅々を通れば、それほど湿度を気にすることなく、室内の仕上げはいたって簡素なものでよくなってくる。さらに、これまで害虫にやられやすいといわれて使われなくなってきた木の素材を生かせる可能性もでてくる。
各部屋はそれぞれが独自に風を呼び込む、吹抜けの空間単位で構成する。寄せ棟屋根の天井をとりはらった一角を切り開いて十分な高さを保ち、重力によって湿気を上にぬくようにする。
農村地域のところどころでよく見かけるタバコ乾燥小屋が一つのヒントを与えてくれるいい例だ。こうして、風の流れる室内をつくりだすことができれば、市街地の中でも、外に開いた間取りが十分可能になってくる。
風の通路と風の塔
大広間を仕切る二重カベの風の通路(水平方向の換気筒)と広間中央部の2本の風の塔(垂直方向の換気筒)を配置することによって、窓を閉めきっていても室内は常に外気と触れている状態を保ちつづける。
二つの風の塔は各室とつながり、屋根裏の風のふところと床下の空気層を結ぶ。室内の隅々を新鮮な外気がめぐる。
大大広間の床をくり抜いて無双式のルーバーを組み、夏場は涼しい風のコタツになる。そして、各部屋は大きく風を吸い込んでそれぞれが独自の呼吸を始める。広間の先のアマハジには軒のひさしが大きな陰をおとし、花ブロックのルーバーは、いったん風と光をさえぎり、そしてやわらくそれを取り込む。
空間を形づくる4つの要素/土・水(湿)・光(熱)・風
コンクリートブロックの家をより涼しくするために、土と芝生のベンチレーションが太陽の熱をさえぎる。
風と湿度(水)、土と熱(光)のそれぞれの要素が家全体をかたちづくっていく大きなテーマである。これら四つの要素がその場所でうまくバランスされることが大切なのだ。
台風や湿度を気にするあまり、家を閉じ込めてしまって、不快な日常を送るよりも、快いと光をあび、台風や雨を感じ、自然に抗する弾力のある家を望みたい。都市の住宅は、アスファルトの歩道を突き破って根をはるデイゴの木のたくましさを欲している。
冷房いらないRC造り
築二十年目を迎えた「風水の家」のリフォームに立ち会って、昨今の住宅事情に思いを巡らせてみた。リフォームと言っても、台所と風呂場の改装、建具の取りかえ以外は完工当時の姿をとどめている。新築当時は、戦後復興期に建てられた木造住宅からRC造(鉄筋コンクリート)へ急速に立て替えが進んでいた時期だった。
台風対策とシロアリ対策がRC造に傾いた大きな要因だった。コンクリートブロック壁が外人住宅と同様の平屋建てスラブヤー、下駄ばき二階建て型式のRC造や間口が大きく広いベランダのある民家風の家、将来の増築に備えたツノ出し住宅など、沖縄的スタイルの住宅が並んでいた。それらの住宅の間取りの特徴として、木造の時のスタイルと基本的には変わることなく、一番座、二番座を中心に備えていることがあげられる。しかしながら、 コンクリート造は熱対策が不十分で機械設備に依存する必要があった。木造からRC造に建て替わる際、近代化の象徴でもあった冷房機の導入がごく当然のように行われていた。そして、木造に比べて一回り大きなRC造のスケールは街の景観を損ねてしまっている。長い時間を重ねて築いてきたオーガニックな建築的空間を瞬く間に壊してきた。
「風水の家」の計画は、基本的に木造の間取りの特徴をそのまま取り入れて、RC造にすることで失ってしまっている木造の家の人間的なスケールのやさしさとRC造の力強さ、両方の良さを生かせるように考えた。可能な限りパッシングクーリング・システム(自然循環の冷却装置)を導入しているのでクーラーは要らない。このシステムを導入したRC造り住宅は当時としては珍しかった。設備機器に頼るのではなく、土屋根の断熱・自然換気筒、床下をくりぬいた風のコタツなど、外と内の空気の流れを家全体でコントロールする建築的な方法を見いだしたかった。強い日差しを拡散する花ブロックのスクリーンなど米軍施設で発達した新しい技術と、民家の開放的な間取りなどの伝統の知恵を組み合わせた新しい手法を取り入れて見たかった。
人と自然の巡りのよい関係
沖縄の住宅建築にとって、二十世紀は急激な変化の時代だった。しかし、それが生産効率だけを追い求めているシステムと同じ次元の変化なら、それは住宅も環境破壊の一端を担っているということである。自然環境を汚染する生活の悪循環を避ける意味でも住宅が抱えている課題は大きい。そして、暮らしに人間的な価値観を呼び寄せるハーモニー(調和)がコミュニティの再生にとって欠かせない大事な要素だということを家づくりから語りかけていきたい。
夏の涼しさと冬のぬくもりを生み出す知恵を生かしながら、今を生きる住まい方があるはずだ。水と光と風と土は空間を形づくる四つの基本的な要素である。人・時・場所に応じてそれら自然の要素がバランスよく巡りあえる、環境にやさしい住まいを造っていく方策があると思う。身近な素材を使いながら、生活環境を豊かにしていく無限の可能性が一人ひとりの生き方の内に秘められていると思う。
20数年を生きた「風水の家」も、かつての木造民家同様、この時代の地域の姿を映しているのではないだろうか。様式や素材にとらわれることなく、自然と人との巡りの良い関係をつくっていくというアトリエガィィの設計の方針は当時も今も変わっていない。
人と自然の巡りのいい関係は、幸福な家づくりの指針である。
今も健在する「風水の家」はそのことを、教えているように思う。