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チンボーラ

チンボーラ

建築地
沖縄県那覇市具志
用途地目
住宅
施工
1986年

丘にあがったチンボーラ(巻貝)

最小限で完結する住居 ~ 重宝なヒンプンテラス

快適さの基準を数量で表すことは難しい。そして、生きていくために最小限必要なものは、人によっても、場所や時代によっても異なってくる。風水術などの指針を仰いでも、様々な制約を受けて、計画はマニュアル通りにはいかない。時には価値観の方向転換も余儀なくされる。一律に測れない生活の快適さを保つ秘訣はないのだろうか。
日常生活の規範を定めたヨガの道徳律のひとつに「アパリグラハ(過度な生活の楽しみや快適さに耽らない)」というのがある。時間や場所や人によって変化するもろもろの対象に心奪われることなく、世の中との均衡を保っていくすべを説いているものだが、最小限必要な住まいの基準を計る物差しとして、私は周辺集落の生活風景を見て回ることをお勧めしたい。社会に必要な要件を満たしながら、その中から手がかりを見つけ出せるのではないかと考えた。
紹介する住宅は、計画の初期段階で、住み手の希望を聞きながら一緒に周辺集落のフィールドワークをしてみた。具体的に施主の考えを聞いたり、双方の思いを伝え合うためである。家々の特徴や変わり方など、それぞれの視点から対象を眺め意見を交換した。
木造民家の庭と家の配置や方位の共通点、建て替えによって壊れていく屋敷囲いや無造作に車が乱入するヒンプン跡、意外に活用されているアタイグヮー菜園・・・。そして、施主の2LDKのアパート暮らしの生活体験を目安に、土地条件に見合う住まいの大きさを想定しながら、平屋の感覚で菜園や庭と身近に接することのできる間取りを考えるという方針を見出した。
具体的には、菜園という実質的に価値のある裏庭を想定し、ヒンプンの仕切りの要素とテラスの機能を備えた半戸外テラスを正面に置き、家の新しい顔にするという配置計画をまとめていった。
ヒンプンテラスは子供たちの成長に応じた遊び場になったり、物干しや工作の場になったり、また、夏は昼寝、冬は暖かい日差しのサンルーム、時には食事の場にもなる万能のスポットになっている。頻繁に使われていることが何よりもうれしい。
リビングはダイニングを兼ね、食べることがコミュニケーションの軸になるように大きなテーブルを置いている。小さいながら多くのことをこなせる機能集約型の間取りである。間取りの生命線は内と外の空間のつり合いにある。
音、色、形、香り、手触りなど五感を通して語りかけてくる「自然の摂理」にかなうかどうか、それぞれの直感で感じとることができれば最良の目安になる。それが自然のサイクルの中で生活のバランスを保つ秘訣だと思う。
小さいながらも大自然の中で完結したスペースを持つ「海のチンボーラ」のように都市生活を満喫してなお宇宙的な存在を忘れない生活感覚を養っていきたい。

kogomi

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