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ゆいクリニックの外観

ゆいクリニック

建築地
沖縄県沖縄市登川
建物用途
戸建て2世帯、診療所兼用
述べ面積
824.65㎥
構造
RC造、一部木造
階数
地下1階、地上3階
施工
2011年11月

住まいの居心地を医院に、医心を住まいに

病院らしくない診療所と健やかに暮らせる和やかな住まい。そして、自然分娩をするお産の家にふさわしい、自然と寄り添う建築の有り様が求められていた。生活密度の濃い施主のライフスタイルを拝見して、小さなスペースを最大限に活かして使う空間利用の独自性に着目した。建築はよく使われることによってそのものの存在価値を高めるとともにコニュニティーを再生する力を秘めている。ゆいクリニックの設計は命のつながりを大切にする産婦人科の診療所として赤児を包む衣のように五感に優しい空間づくりが望まれる。そして、併設する住宅は木造の良さをとりいれることが課題である。

  • 一級建築士事務所 アトリエガィィの作品
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1.風水的視点からの発想

敷地は南西の方角から北東に向かってなだらかに傾斜している。インド風水によれば地勢によって地磁気の流れが変わる。南西が高く北東が低い地形は気の流れが良好で、東に開かれた家の構えが良い。一方、中国風水によれば南向きの地勢と家の構えが良いとされる。双方の吉相をヒントに診療所と住宅の間取りを考えた。

インド風水によばれ宇宙を構成する五元素、エーテル(気)、空気、火、水、土を適正に配置することが重要である。インドの古代医学アユルベーダにおいても五元素からなる人体は風と火と水の三つの気質で表現することができる。同様に、風と光と水のバランスを図ることで建築の特質を見極めることができる。お産の家は病院のような冷え冷えした空間ではなく、家庭的な雰囲気でくつろげるようにそして「住まいが病いの原因にならないように」五元素の融和を図り、北東から南西方向への気のめぐりを大切にして間取りに反映させる。

2.間取りの多様性:ゆい空間の発見

”ゆい”とは互いに助け合っている関係のことである。スペースをつなげて広く多様に使いこなせるように:木造空間=和の特色を活用する。空間を多様に組み合わせ使うことで利用価値を高め密度の濃い利用を可能にする。簡素で柔らかい雰囲気で和めるように漆喰と無垢の木をベースに使って古くて新しい空間構成を試みる。

◆空間の持続性

1.五感に優しい素材使いの知恵
室内は木と漆喰壁(月桃、土入り)でなごみやすい空間を構成している。外壁は沖縄の伝統的な木造民家に見られるヤマト張りと、木舞を施したモンゴル式の土壁を採用している。屋根は赤土を石灰でかためた7センチ厚の土モルタルで覆っている。地域で昔から使われてきた素材を使って建築の独自性を醸し出せる。
RC造本体は岩瀬式コンクリート打設法でスランプ12の高強度を保ち、外周は木部も含めて液体ガラスを散布して耐久性を高めている。一般的な断熱材で長期優良住宅の内容をクリアーした上で、さらに建物の内外を木と土で覆い、熱効率を高めている。

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2.自然素材で構成する室内
床はフローリング材に自然オイルを塗り、琉球畳を敷いて子供や妊婦が自由にくつろげるように。畳座の視線で見るとものがよく片付きニットでクリーンなスペースを保ちやすい。壁は赤土と月桃の繊維を混ぜた沖縄漆喰をベースに場所に応じて腰板を張り巡らせる。
月桃はその成分が抗菌作用を持っているため殺菌効果も期待できる。
天井はモイス張りか板張り、もしくは漆喰塗りで吸湿、吸音効果を高める。
建具は木製の引違ガラス戸を採用して風と光がよくめぐるように、全体として和の特色を活かし、簡素にして多様な空間利用ができるように考えた。

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3.ガラス回廊をめぐる光と風
中庭を囲む2階の回廊は木製の窓を通して光と風を巡らせる。
目にやさしい光を感じられるように色ガラスを混ぜ合わせて配色する。
外と内、部屋と部屋の仕切りはスライド方式にして自由に調節できるようにする。
熱や湿気を上部に逃がす工夫として吹き抜けや高窓を利用する。

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4.いろいろな素材を使って外の熱を遮断、内外の環境を整える

ゆいクリニック

←赤土モルタルの屋根断熱

土、石灰、再生ガラス軽石、石灰石粉、セメントなどを混ぜ合わせて50~70厚に塗り込む。


ゆいクリニック

←コンクリートスラブ下の断熱素材

硬質ウレタンフォーム70厚。


ゆいクリニック

←モンゴル式土壁

杉板木舞30*10、3段組みの上厚40赤土モルタル塗り。


ゆいクリニック

←和小屋&沖縄民家風板壁

ウレタンフォーム+タテ羽目板張り。


5.ひび割れのしないコンクリート打ち

ゆいクリニック
総勢50人が関わったコンクリート打ち

岩瀬式再振動工法を取り入れる コンクリート強度30、スランプ12

 再振動工法はコンクリートの強度を高めるために細 心の注意が必要、時間と人手を要する。打ち放しコン クリートの表面は液体ガラスを塗布、さらに耐久性を 高めている。丁寧にコンクリートを扱うことは素材を より身近に感じることができ、クリエイティブな表現 の可能性を高め、ひいては感受性を育んでいく。

◆水と土のめぐり

ゆいクリニック

1.風水筒の提案
建築の中心に吹き抜け空間を配して、風、光、水をめぐらす。インド風水の原則にのっとり、中央部に気を集めて五元素を全体に行渡らせる。生命のシンボルである水が中庭空間演出する(水の音、水面のきらめき、水辺の植物、雨水を化、etc)、二階の窓に風と光を送り、4m×5mの大きな吹き抜けは屋上の庭にさわやかな風を届ける。水の流れは風水の原理に従って、敷地の傾斜に沿い東北の位置に向かうように雨水タンクわ設置する。

2.水循環のしくみ

屋根から流れる雨水を4か所の濾過槽で受け、地下タンクに貯水し、(約40トン)トイレ、洗車、掃除、洗濯の一部、庭の散水に活用している。
その一枝は中庭の池につながり、池の中を巡らせば外の空気を取り込み再び浄化されて貯水槽へ帰る。
雨水は庭の景観を作り、流れる水の音を楽しむことができる。池の一部は田んぼの土を入れてハスや田芋を植えられるようになっており、メダカや金魚が泳いでいる。

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3.屋上菜園

ゆいクリニック

3.屋上菜園
風水筒の上は屋上菜園
庭の菜園は家族のコミニケーションの場。
コンクリートスラブの上に突き出した換気塔も庭の一部に組み込めれて照明台になっている。
住いの風と光をコントロールするばかりでなく、植物の生長を育むことによって家族に自然に触れる喜びをもたらしている。

◇建築の質的転換~

ゆいクリニックの設計は命をはぐくむという建築の役割を再認識する良い機会であった。しぜんそざいが生きいきと使われることに腐心したことを振り返って、素材そのものよりも素材の組み合わせや構成によって使われ方に大きな影響があるように感じる。よく使われることが最良の喜びであり、五感に響く表現が、空間の持続性を支えているのだという思いに至った。心で感じることの大切さををもっと意識した設計、施工の取り組みが今必要とされる時代なのだろう。人と自然への愛と信頼を深めていく活動が建築のフィールドに求められているように思う。

2年後の住いの感想

「天井まで漆喰と木材で覆われて、コンクリートがむき出しになったところがどこにもない自然素材にこだわった住まいは、とても居心地がよいです。できあがって2年近くたっても、訪れた人が木の匂いに癒されると言われます。

また、住み心地を何度も設計図で考え抜き、自分たちの生活スタイルにあった住まいは、住み始めてすぐから、もう長いこと住み続けているような感覚をもたらしてくれました。

3階住居は天窓から風がぬけてとても涼しく、クーラーがいりません。熱効率を考えて、個室にのみクーラーを設置した配置は正解だったと思います。また、屋上庭園の緑に触れることで居間からの景色に癒されます。毎日ハーブを取り入れた食事を取ることができて幸せです。」

「第5回サステナブル建築賞」受賞建築作品

沖縄空港から車で45分の郊外に建つ産婦人科診療所と医者家族が住まう住宅である。箱形のRC造という沖縄の現代住宅が持っている無機的なイメージとは一線を画し、空に向かってセットバックした壁面と勾配屋根を重層しながら、土壁や木製サッシュで建物全体を包み込んでいる暖かい印象の外観が特徴的である。「住まいの居心地を医院に、そして医心を住まいに」という設計者のコンセプトを率直に表現している。

計画段階から、インド風水と中国風水の吉相を取り入れていることも特異である。建物の中央を吹抜けとした回遊式の平面形を持ち、吹抜けからも自然光を採り込み、木製サッシュの欄間の無双窓からソフトな自然通風が得られる。また、屋根や屋上庭園からの雨水は濾過層を通過後、地下タンクへ溜め、トイレ洗浄、洗車、清掃、庭の散水に再利用されるよう水の循環を創り出している。

産院の内部空間においても、木製フローリング、漆喰壁、琉球畳、ステンドグラスが入った木製建具で仕上げられ、あたかも住宅にいるような何とも言えない居心地の良さがある。自然分娩という自然なお産と適応した落ち着きのある空間となっており、入院室は吹抜け上部のハイサイドライトからの採光と換気によって、穏やかな気持ちで過ごせる。最上階に位置する住宅も、天井を一部織り上げて暖気がうまく抜けるよう断面に工夫が見られる。

設計者の経験を活かして様々な素材を利用した有効な断熱材としての環境配慮がなされている。特に、スランプ12コンクリート強度30の密実なコンクリート駆体、木舞を施したモンゴル式の土壁、赤土を石灰でかためた土モルタルなど古来の建築素材を現代技術によって高品質な環境材料に転化している。さらに食わず芋の葉っぱを利用して、ペーブメントのパターンとしたり、1階ピロティの天井に打込んで模様をつけたり、医院が自然感を大切にしている思想がディテールにまで波及している。

総じて「ゆいクリニック」は数値的に評価することは難しいが、木材や土等の自然素材を多用し、創意工夫と独特なアイデアが至る所に施された新しいタイプの沖縄建築・風土を創り出す野心的なサステナブル建築であり、意欲作として高く評価したい。

審査委員会講評 (安田幸一)

「第二回沖縄建築賞」奨励賞 受賞建築作品

自然息づき家のよう

清流を好む「カジカカエル」が鳴いているのに、まず驚かされた。中庭に展開する人工池を見ると、田芋を筆頭に数種の水草が繁茂していて、その間をオタマジャクシが泳ぎ回っていた。これをのぞく子どもたちは、さぞ喜ぶだろう。せせらぎの音はお母さんのおなかに居る赤ちゃんにも聞こえるかもしれない。

風水筒を志向したと言う思い切りのよい吹き抜けのあり方は、なるほど、風、光、水の気が巡り心地よい。上階の回廊は、その効果を期待できると思った。

およそ病院らしくない診療所ではあるが、病院のあり方を提案する姿勢は好感が持てた。受付もそうだが、待合室などは住宅の居間のようで、妊婦の緊張も和らぎそうだ。間取りの多様性も連続してつながる楽しさがあり、さまざまな素材を取り込み、もっと豊かにしたい気持ちも伝わってきた。施主も含めて、そのあくなき挑戦を称賛したい。

第2回沖縄建築賞 審査講評

kogomi

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