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首里の家

建築地
沖縄県那覇市首里金城町
用途地目
第一種低層住宅地域(都市景観形成地区)
敷地面積
181.8㎥(55.1坪)
床面積
222.3㎥(67.3坪)
地階
87.4㎥(26.5坪)
1階
70.9㎥(21.5坪)
2階
642㎥(19.3坪)
建ぺい率
50%
容積率
100%
構造
鉄筋コンクリート造
施工
/2001年3月
  • 一級建築士事務所 アトリエガィィの作品
  • 一級建築士事務所 アトリエガィィの作品
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  • 一級建築士事務所 アトリエガィィの作品
  • 一級建築士事務所 アトリエガィィの作品

住み手が求めていたこと

アトリエ・ガィィが設計したMさんの家は、首里城のふもとの金城町にある。
Mさんは以前、ここから少し下った坂下の借家に住んでいた。
植物を育てることが好きだが、借家ではそれもままならず、
新しく建てる家では、緑を育てることができる庭がほしいと考えていた。

奥さんは看護士でケアマネージャーでもあり、住み手にやさしい自然素材の使用や、老後の車イス生活を考えたバリヤフリー空間も求めていた。

そして、那覇市内で、しかも静かな環境、眺めのいいこの土地に出合った。


周辺環境を見て歩く

計画を始めるにあたって、まず、傾斜地をどう生かすか。そして、生活条件を満たしながら、周辺の環境にどう反映するか。

金城町の歴史の道をじかに歩き回りながら、構想を練っていった。


金城町の町並みは、斜面に建つ赤瓦の家々を、路地がむすんでいる。
昔の家々の成り立ちは、傾斜地でどういう風にできているのか。
あちこちに踏みならされた琉球石灰岩の石畳や緑に覆われた石塀が残っている。
石畳道の段々は、踏み面が緩やかな傾斜になっていて、スロープとステップをうまく組み合わせてできていたりする。
コンクリートの平坦な道を歩くよりも、こういう石畳道の方が歩いていて、楽しい。



上階リビング案へ

便利さを優先すると、表通りに面した1階にそのままリビングや水まわりなど、生活の中心を配置した方がいい。
ところが、計画している時に、向かいに赤瓦の大きい家が建ってしまった。
そうすると、1階のリビングからの眺めがなくなってしまうことになる。
眺めがいいのが気に入って買った土地なのに、これでは良くない。
リビングを上階にもっていったら、眺めもいいのだが・・・


車庫の位置

車をとめる位置も難題だった。
表通りに面した1階をそのまま車庫にすると、人や車の通りが多いので、安全性がよくなかったり、階高が中途半端な高さになったりする。
結局のところ、裏通りに面する地下に車をとめることになった。






地下から屋上までつなぐ路地

地下から屋上まで、どうやってスムーズにあがっていけるようにするか、
という工夫がもう一つ必要だった。

その工夫は、金城町の町並み・路地がヒントになった。
金城町にある井戸(カー)のある広場のスケール感を、そのまま車庫のスケールにあてはめていくと、どのくらいの段差で、どのくらいのスロープで快適な行き来ができるのか、という目安になった。実際のスケールを体感するフィールドワークが計画に活かされる。

地下の広場から屋上まで、路地のスペースを、スロープとステップでもって上まで上がってゆける仕組みを考えた。

路地の坂道を通って、地下の広場へゆき、敷地の中の路地を通って1階へ。それからまたぐるっと一廻りして、今度は2階にいける。

だから、1階にも玄関があるし、地下にも玄関があって部屋があって、2階にも玄関がある。

それぞれ個別に、家と家と家が段々で坂道につながっていく感覚。金城町の町並みの延長なのだ。楽しみながら、路地をぐるぐる廻っているうちに、上までたどりつける。

難点は、リビングや水場など生活の中心を一番上の階にするということ。しかしそれも
「ぐるぐる廻って路地を歩くことが楽しみである」
「路地の中にある家」をコンセプトにしたらスムーズに事が運んだ。そして住む側も、路地の中に家があり、家の中にも路地があるという認識で一致した。






赤瓦屋根の変身

昔、木造民家に使われていた赤瓦屋根は、水と風を防ぐという、実質的な役割があった。
しかし、コンクリート屋根が主流となった今、断熱の効果を考えたら、コンクリートの上に土をのせるのが一番いい。土屋根や芝屋根である。
土がメインなので、土を留める役目を、レンガ製品にしてみる。でも、レンガだと、ちょっと重すぎたりする。そこで、レンガをたくさんつくるよりは、瓦を縦にして、土留めができるのであれば、軽くてよい。
瓦はモルタルでしっかり固定し、寝ている瓦を起こして土留めとして使い、段々畑にして、人が使える赤瓦屋根にした。
景観としては、ここが金城町に行くメインストリートなので、観光客とか、色んな人が通る。そこを、どういう眺めになったらいいか。屋根に花が咲いたり、好きな花を植えられる。ユリも植えられるし・・・奥さんがユリの花が好きだった。
自然をよみがえらせる景色をつくった方が、環境にやさしい。


すまいに自然のバランスを求めて

道端や庭先に自然に生えてきて実をつけたりするクワの木など、自生している植物の状態を「ナンクルナイ」と呼ぶ。
このナンクルの状態は人手をかけずに勝手に生長していく意味合いのほかに、何か見えない意思の力が働いている。
「自然になるようになる」という態度の裏に自らが求めている思いに確信をもってこの言葉を使うとき、心のゆかしさを感じさせる。そこには自分が積極的に関りたいと望んでいる意思が込められている。そうゆう風に感じられるバランス感覚を養いたいものだ。

首里の家にかかわっている間、よく近くの路地を歩いた。
古い城下町の名残をとどめ建て替えられた新しい家々も伝統の風景を取り戻そうともがいている。個人個人の生活にとっての住まいとその将来を考えると、新旧のバランスを再び回復していく必要を感じた。一面的な歴史の見方を超えて、様々な角度から時の断片を見つめ直すべきではないか。
石畳道のはずれにアカギの巨木が茂る広場がある。
精妙な空気が漂うアカギの樹の力強い枝ぶりや、その場の間合いを保つ確かさが見る人を引きつける。この身振りの確かさがこの地域の環境の特性を教えてくれる。
地域の古老がシジ(霊、たましい)の力と呼ぶ生命力が樹に不思議な魅力を与えているのか、天から与えられた生命の自由を自覚しているのか、木立はバランスよく風になびいている。光に向かって幹から枝へ、枝から枝へ間合いを保つ術を心得ている。
その枝を一体どこから身につけてくるのだろう。精妙なバランス感覚はどのようにつくられるのだろう。

家づくりを歌にたとえて、その魅力と美しさが歌の思い・ことば・メロディ・リズムによってうまくブレンドされているように、バランスのとれた住まいはきっとある。
どのように住むかという知恵とそれを構成する素材の適切な選択、それを組み立てていく技とそれらを美しくまとめる芸がある。そのバランス感覚は「ナンクル」の内に秘められている主体性を発揮する際に表れる。

「心にかなう風景に出会うのに遠くまで出かける必要はない。・・・普通の住まいにもさわやかな風や清らかな月の光は遠くからやってくる」と古人はいう。
はたして心にかなう自由自在な天地は家の中に見出せるか。ユートピア的な虚像を映すマイホームの夢は消え、家族という単位の理想のモデルが壊れていく今、日常の暮らしの中で実現できる実践的な哲学を必要としているのではないか。
愛を育む樹の幹のような、普遍の光を導くホームのありかを人は探しているように思う。



首里の家では、漆喰と竹がうまく調和するように、光の空間を演出する素材として竹を使った。竹は音に対する反響もいい。そして熱を持たず、見た目も涼しい。

蛍光灯の大きさに合う太さの竹を探して長さを決め、知り合いの工芸家に切り込みをお願いする。電気工事の職人に取り付け方を相談し、安定器が上手く節目に収まるように工夫する。仕上げは自然オイルを塗り、時と共に変化していく様子を楽しめるように。

日頃、住宅の内外装によく竹を使う。沖縄にある竹材は中国産かあるいは九州方面から造園用として入ってくる。身近に供給できる資源に乏しい今の沖縄で生産可能な有用材を考えるとき、成長が早く、どこにでも育つ竹が有望だ。

フィリピンの竹の家、インドで見た寺院をかたどった竹の仮設架構物、竹で組んだ巨大な布のシェルターなど、アジア一帯で出会った竹の構築物に感動したのをつい最近のように覚えている。そうしたアジア一円の文化とつながる竹の復権を願い、これからも竹の可能性を探っていきたい。

kogomi

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