寿の家
- 建築地
- 沖縄県那覇市首里
- 用途地目
- 第一種低層住宅地域
- 敷地面積
- 176.22㎥(53.3坪)
- 床面積
- 137.04㎥(41.5坪)
- 1階
- 85.02㎥(25.7坪)
- 2階
- 52.02㎥(15.7坪)
- 構造
- 鉄筋コンクリート造
- 施工
- 2003年4月
熟年夫婦のための住まい
子育てもひと段落し、もうすぐ定年を迎える夫婦が、第二の人生を過ごす家を考えたいと当事務所を訪ねてきた。これまで住んできた家にも思い出や愛着はあるが、湿気がある土地にもかかわらず、湿気対策が不十分だった事から、築十数年にして床など大部分が傷んでしまった。これまでは小規模の修繕で応急処置をしてきたが、60歳を目前にし、老後の事を考えて安心して住める住まいにしたいと建て替えを決意した。
建て替えに当たっての希望は、まず湿気対策をしっかりする事。
夫婦の為の住まいなので、二人の趣味を楽しめるスペースがある事。
それから自然素材や木をふんだんに使いたいとの事。
庭にある桜の木などいくつかの植物はそのまま育てたいとの希望。
植物を大切に育てたいと言う夫妻の姿勢に共感した。
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熟年夫婦が悠々と趣味を楽しむ住まいということで、設計の最初の段階では、家族の暮らしぶりや趣味について話し合う事が多かった。
ご主人の趣味の一つは書道である。その為のスペースとして寝室である和室の一部を、畳敷きでなくフローリングとし、長尺の紙を広げて書を楽しめるようにした。
その背部左側には、これまで集めた書物を収納するための壁一面の書棚を作り、右側の吹き抜けに面したスペースにはPCを設置、寝室と一体になって書斎として機能するように計画した。
また彼のもう一つの趣味は土いじりなのだが、植物の中でも特にランが好きで、シーズンになると植え替えたり、株分けしたり様々な作業があるという。
その為のスペースが必要だというので、玄関の土間をタイル敷きにして計画し、天候にかかわらず作業を楽しめるようにした。また玄関靴箱の上にある大きな窓には、外側からランの鉢が飾れるように工夫をした。
この玄関土間は玄関ポーチと南側の縁側のある庭を結ぶ通路も兼ねている。靴を脱がずに縁側まで客人を案内できるよ 夫人の趣味は料理と手仕事で、いずれのんびり織物などやりたいとの希望があった。
庭仕事のための道具もかなりあるようなので、高床になっている床下を利用して物置にし、無双窓をつけて灯りや通風を確保した事で、床下の換気が充分取れ、湿気が室内に上がってこなくなった。
夫人の趣味は料理と手仕事で、いずれのんびり織物などやりたいとの希望があった。
まず毎日使用する時間の長いキッチンを、使い勝手の良い居心地の良いものとする工夫をした。タイルや扉のカラー、システムキッチンなど一緒にショールームに出かけ、入念にサンプルを見比べ、夫人の意見を重視し決定した。
流しの前には暑い時期にも自然の風を取り込み、外の様子の見える横長の窓。料理をしながら外の植物を眺めたり、通りを行く人に声をかけたり、天気を確認したりできる。
お気に入りで何年もずっと愛用している、どっしりと貫禄のある大きなダイニングテーブルの上には、オリジナルデザインの琉球ガラスのライトが輝いている。来客も多く、客人を料理でもてなすのが大好きな夫妻のために、部屋の雰囲気を簡単に変えられるように、天井付けのダウンライトと琉球ガラスの照明器具を配置し、それぞれのスイッチで、あかりの組み合わせが変えられるようになっている。
和室の周りを廻る幅広の廊下には、機織り機が置けるようになっている。
ここで織物や縫い物をしたり、収穫した豆やハーブを干したりできる。趣味のスペースと言うか、手仕事の場にもなるように考えての計画だ。
また、思い出の着物などお気に入りの品を飾っておくスペースにもなっている。
完成後たずねたときも、屋上で取れた小豆を干しているところだった。夫妻の細やかな暮らしぶりにホッとする空間だ。の部屋など多目的に利用できるように、間仕切りを工夫してある。
夫妻の共通の楽しみは、何と言っても庭仕事だ。
ご主人はラン栽培はもとより、庭木の手入れも好きで、南側の庭には黒木が植わっているし、東の角にはバナナの葉が茂っている。
玄関ポーチの右手には住み始めた頃から育てている大きな桜の木があり、春には見事な花を咲かせる。北西の角は小さな菜園になっていて、パパイヤが実を付け、様々な野菜が育っている。
また、2階のベランダには、深さ30cmほどの作りつけ花壇BOXがあり、夫人はここでハーブやバラなど草花を育てて楽しんでいる。
その上階の屋上は、一部土を盛り屋上菜園とし、自家用の野菜を育てている。
夏には元気良く育ったゴーヤーやヘチマが、ぐんぐん蔓を伸ばしバーベキュースペースの上のパーゴラに緑の屋根をかける。その屋根の下で、たくさんの実がゆらゆら風に揺れている姿はほほえましい。
そればかりでなく、この緑の屋根は西向きの寝室の高窓に影を落とし涼しさを運び、寝室からの眺めを素敵にしてくれる効果もある。
一番高くなっている寝室の屋根には、段状にヤシガラマットを敷き詰め芝生を貼った。これはコンクリート屋根の断熱のためのものだが、屋上に原っぱがあるということで、月夜にはここで月見を楽しんでいると夫妻は話してくれた。
玄関扉をはじめ、台風のふきこみが強い西側を除いて、ほとんどの建具が木製スライド扉を使用しているAさんの家は、室内に入ると木がふんだんに使用され、風や光がめぐる自然であたたかな印象だ。
壁は藁の変わりに月桃の繊維をすき込んだ漆喰塗り、階段の手すりや玄関の段床、縁側の木材は、沖縄本島北部の山から切り出された県産材で、材料選びには夫妻も同行し吟味したものだ。設計期間は約1年間。
材料や間取り、細部のデザインについてもじっくり話し合って進めてきたAさんの家は、住み始めてからより一層、夫婦の夢をしっかりと育んでいるように思う。