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この地の郷を慈しんで
ちゅくいむじゅくい:創る・造る  文・写真=兼松紘一郎(兼松設計)

組積造のようなコンクリ ート(RC)ブロックや花ブロック(穴あきプロック)の壁に這い上がる“黄金蔓”。大きな葉っぱがあまりにも見事なので思わず “凄い! "と慨嘆した。すると、この屋の主佐久川ーは、道との隙間に植えたら、 どんどん伸びて始末に負えないと困惑したものの、妙に愛おしくなって時折伐採するだけ。苦笑しながらもこの地でともに生きることを慈しんでいる。
沖縄の友・建築家根路銘安史の車に乗って訪れた佐久川のアトリエ・住まいの、一見無機的なRCブロックの開口の端を突き出したり、多様な 文様の花ブロックを組み込み、RC打ち放しの階段壁や天 井には陶器の破片や拾い集めた貝殻を埋め、巻貝を突出させ、己のこの地への意識をカタチとして伝えている。床には段差をつくり天窓と壁を重ねてサイドからの光を取り込むハの字型のアトリエ。そのバランスが絶妙で妙に心惹かれる豊かな室内空間である。

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生まれたのは、戦後米軍が設置した難民 収容所のテントの中。その幼い時の様相・名残が現在の生活に漂っている。自宅・事務所にも米軍基地の放出品、家具や調理道具、 ダークグリーンの毛布など、生活に必要なものだけを手に入れて、40年間使っているのだと訪ねたアトリエで苦笑した。しかしその取得物 (笑)が、妙にオフィスに馴染み収まっている。流石に建築家だと僕も内心ニャリ。その佐久川は、昔は酒を飲めたが現在は“ ベジタリアン” だと笑むが、設えた一階の部屋で心のつながる人たちと瞑想に耽る。

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風水の家へ

推薦入学をした早稲田大学では、吉阪隆正教授に魅せられ恩師だと言いたくなる。入学当時、新大久保にあった吉阪邸を見て建築 は自分に向いていると意を強くした。卒論では、アトリエ・モビルを率いた丸山欣也の指導を受けた。長崎に構築した26聖人のレリーフを見て、これでいいのだと吹っ切れ建築への道を歩み始 めた。5年に渡って吉阪研のOBが構築した 象設計集団(TeamZoo)に所属。建築の設計 に携わりながら、地域計画やランドスケープにかかわる。いわば自身にとっての処女作とも言 えるのはその頃建てた知己の家「風水の家」。それから4年を経た1982年、故郷沖縄にアトリエガィィを設立して独立した。

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風土を愛でて沖縄に

「沖縄を出て東京に行った」ことが大きかった…と故郷に根を下ろした佐久川は振り返る。生誕地を出たのが物心のついた大学生時代であったことが、この一文を起稿している僕とは 一味も二味も違う建築への想いになるのだと瞑目する。戦時中東京杉並に生まれ千葉県柏に疎開、 戦死した父の実家のある長崎から天草へ等々転々とし、故郷はどこだ! とわが 身の来し越し方を振り返ることにもなった。
言わば地に根付きこの地の風土を掘り起こしての空間構成「風水の家」。床下を高くとっての通風、足を下ろすと冷気感じる風の矩撻、屋上に芝を貼って断熱し、中央の大広間に吹き抜けの階段を設置、両サイド・寝室の搭状に突き上げたハイライトからの通風と子供室の吹き抜けスペースからの風の循環。そして外壁には通風路をつくって花ブロックを。沖縄建築言語のチャンプルである。

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当時のRC造と言えば新しい機械設備を羨望する時代、クーラーを使わない屋上芝案にこの屋の主の父親は猛反対。しかし、竣工したら“教会みたいだけどいいね"と言ってくれた。名エの代表のように言われた大宜味大 工、その棟梁が木工事の多いRC造の建築を喜んでくれた。建ててから38 年、オーナーは地学の先生となった同級生、 40歳になるその子息がこの家を絶対変えないでと言っていると佐久川は嬉しそうだ。
さて、2016年度の沖縄建築賞を得た「ゆいクリニック」。天井のRC打ち放し面にクワズイモの葉を取り込んだ佐久川文様、その奥の吹き抜け空間に小さな池と植栽を設置、それを取り巻くように光が降り注ぐ3層の、住宅とクリニック設を組み込む。道路との間に煉瓦をハメ込んだ植物の鉢を置く台が並んでいる。この背の低い塀をどう捉えるべきかとわが建築観が揺さぶられた。

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そして根路銘が立ち寄ってみようと訪れた住宅。RC打ち放しの半円壁に組み込まれた四角い 15個の花ブロックガラス窓は現場での手作り。2階の屋根はこの家の主の友人が焼いた赤瓦、1階はRCの上に浜に打ち寄せたサンゴ石を乗せた乱積みである。ご夫妻がどうぞ! と家の中を見せてくださった。この地だからできた「海の家」である。
起稿しながら、拝見した「玉水の家」に思いを馳せた。与那原の木造住宅をRCで建て替えた父の実家を壊して木造の混構造に替え、民家を今に蘇らせる。目の前に拝所、井戸のある聖地、生まれたこの地を慈しむ佐久川は、沖縄の風士とともに歩む。

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掲載誌;建築ジャーナル2017年5月号兼松紘一郎が巡る建築家模様【第53話】
人と自然との対話・共棲  〖 佐久川一 〗

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