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めぐりのいい空間は無限の可能性を持つている。

「家をつくる時の主役は住む人です。そこに住む人はこれから先の生活を設計するわけですから、当然どう生きるかを考えるはずです。 僕たちはその設計に立ち合い、家作りの手助けをしているのです。心地よい生活を組み立てるための家づくりの方法をアドバイスできればいい」

そんな佐久川一氏の手掛けてきた住宅は、これまでの住宅の形や間取りにとらわれずユニークだ。
『風水の家』という名前のついた住宅には、芝生を敷きつめた屋上庭園をつくり、緑を愛でながら、断熱するよう工夫されている。
太陽熱を遮断し、家のなかを風が通り抜けるようになっているから、クーラーなどいらない。

強い日差しや台風の多い沖縄の気候風土に耐えてきた伝統的な民家や集落は、『風を蔵し水を得る』という中国から伝わった風水思想に影響されている。
佐久川氏の建築にも、そんな風水思想が生きている。

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「風水っていうのは、生きる力をどう掴むか、高めるかってことだと思うんです。
住宅環境がきびしくなるなかで、家づくりは方向を見直す必要があるのです。
気をめぐらすことによって心地いい空間を作っていくことが出来ると思うし、新しい方向を生み出す可能性は無限に生まれてくる」

そんな佐久川氏の建築は、どんな場所でも自然の風が流れ、呼吸をはじめるように楽しい生活を育んでゆく。

気をめぐらすというテーマで、那覇市壺川の「オーマチャー」を設計した。
〈オー〉は沖縄方言で海の青、山の緑と青々とした無限の世界を表わす言葉。
〈マチャー〉は渦。青い渦巻という意味をもつ「オーマチャー」は、建物が建ち並ぶ市街地のなか独自の存在感で建つ。

「区画整理事業の際に建て替えることになった住宅です。
住居専用地域じゃないから、最初から隣に4、5階建てのビルが建つだろうと予想できたので、ビルに挟まれても、風と水と光が十分めぐるような条件を考えたわけです」

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一見、住宅地として環境は良くないが、佐久川氏はこう見る。

「この先に川は流れているし、ちょっと先には海がある。海洋性の気候だから、風も吹いてくる。
ポジティブに考えをめぐらせると可能性はどんどん膨らんできます」

鳥腋するとその住宅は円形だ。
周辺をぐるりと杉と竹格子のベランダが囲み、壁に挟まれてしまったとしても風が通る。
竹は中身が空洞なため断熱効果があり、格子状に組むことによって日除けの役割も果たす。
もちろん部屋の中は涼しく、たくさんの窓から格子で一端遮られた日差しが幾何学模様に注ぐ。

そして仕切りをなくすことで、広い空間を作っている。
設計段階で、依頼主からガランドウのような広間を作って欲しいとの要望があった。
しかし、限られた敷地の中で作るのはとても無理があったため、ダイニングキッチンと広間を一つに利用する提案をした。
その提案で、ダイニングキッチン、リビング、仏間とさまざまに機能する空間が生まれた。

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「よりよく使われる空間をつくっていきたいと思っている。
よく使われる空間には、そこに居る人達の思いと時間が三つ巴に動きだし相乗効果が生まれてくると思うんです。
よく使いこまれる空間をつくることで、家族の語らいが生まれ、人が集う空間が時と共に育っていく。
住宅の空間はそんな働きをしてくれるんです」

陽や風がそよぎ、人と人とのコミュニケーションが円滑になる空間。
佐久川氏のつくる住宅は、そんな豊かさを私たちの住まいに提案してくれる。

沖縄通信 うるま 1998年8月号

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