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海の家

海の家

建築地
沖縄県名護市
用途地目
住宅
施工
1983年

みんなともだち

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サンゴを断熱材に利用

名護湾の海岸線わきに建つ海の家、と言ってもペンションでもリゾート施設でもない。古くからの集落内にある普通の民家である。

台風で防風林のモクマオウが折れ、建物は海に向かって全身をさらしている。一見平穏な外観だが、強風のときは真正面から砂をかぶる。その厳しさはしたたかなようだ。

施主側の要請は、「いかに潮風に耐えるか」だった。この要請に対して、軒の低い庇の伸びたドーム状の屋根をかぶせて風の抵抗を小さくするように計画した。

建築の最中に、二度の台風に出くわした。そのつど、浜に打ち上げられるサンゴを拾い集めておいて、屋根瓦の代用にした。家は西の海に向いているため、日中の強い日差しを避けなければならない。

風が海から運んできた恵みを、断熱材として利用したというわけだ。

庭先から砂浜へ ~理想郷のイメージ~

庭先の砂浜へ降りると、護岸を覆い尽くすほどの勢いで、砂が盛り上がっていた。風が海から吹いてくるように、砂も海からやってくる。

「海のサンゴが生きている限り、砂浜の砂は増え続けるだろう」と住人は語る。サンゴが生き永らえる環境をどのように見据えていったらいいのだろう。

海岸線と人とのかかわりを思う時、幸福をもたらす神は海の彼方からやってくると言うニライカナイの理想郷を連想する。その概念は時代と共に変わってきたが、いまなお沖縄の人々の海への思いを最も強く表現しているように思える。

「神と村」(仲松弥秀著)によると、ニライカナイは畏敬の念を感じる心であり、海の底深く眠る死後の魂の安らぎの場である。その源泉をたどってみると、理想郷のイメージは決して世俗的なものの豊かさにあるのではないことがわかる。

海に視線を注ぐことによって、島に居ることの豊かさを見つめなおし、日々の活動の中に理想郷を生みだすという新しい家づくりの発想があってもいいのではないか。

人間や草木や虫や他の生き物たちが共に幸福に暮らす理想郷は、遠い海の彼方にあるのではない。分け隔てなく愛を注いでくれる神(ニライカナイ)を思う心に立ち返って、家や村や街の環境を考えていきたい。

花やハーブが植えられた手入れの行き届いた庭が、生活の変化を感じさせる。久しぶりに訪ねた海の家は、のどかな春の陽気が立ち込めていた。


サンゴ石積みの屋根

敷地は名護市内の古くからの集落内にあり、名護湾内の海岸線の際に位置している。

19年前に建てたRC造の旧家屋は、雨漏りがひどく、潮風に耐えられず、建て替えることになった。人々が繰り出すいつもの海辺は集落の庭であり、心地よい涼風をもたらす。

一方、ひとたび風が吹くと海は荒れ、やっかいな潮風を運び込み、波風をたてる。「潮風にどう対処するか」という施主側の問題提示に対し、強風をさえぎって、なおかつ海に向かって開かれている室内を想定した。

夫婦共働きのため家を留守にする時間が長く、朝と夕方に集中する家事作業の簡便さが求められた。また、仏壇を中心とした沖縄独特の生活習慣は、一家にとって親密なものではないにしても、親戚同士のつき合いの場となる仏壇の配置には気を配る必要がある。

台所、食堂、居間、和室を結ぶ動線を4分の1円弧の平面でつなぎ、風呂場、便所の水回りを分離して同じ円弧の流れで家の中の動きを簡潔にした。

円弧のゾーンは、名護湾の夕日に焦点を合わせ、陽の動きに対応した。屋根の庇を深く出し、砂浜と連続する勾配をもった断面を設定し、屋根面は珊瑚石をつかってコンクリートの輻射熱を防いでいる。

高床型式の断面は、海の空気をいっぱい吸い込むことのできる自然換気装置を備えている。1.2mの深さの床下に潮風を入れ、それを各部屋に送り込めるように、床下と部屋の間に無双式の風窓をとっている。

夏場の工事期間中に何度か台風にでくわした。台風の通り過ぎた浜辺には、海中から大波で打ち上げられた珊瑚石のかけらや海草が散乱する。そのつど、工事の親方たちが浜の珊瑚石を拾い集めて、屋根の断熱材としてとっておいてくれた。不足分は近くの浜辺から寄せ集めて屋根を被った。数知れぬ歳月を海水に洗われて丸みを帯びた珊瑚石のかけらが屋根の上に集合し、陽にさらされ、風化していく。

「外観は簡素に、内部は自然の素材を生かして」との施主の要望で、内部はしっくいで仕上げ、海側の外壁は山の石をつかって潮風に対面した。

職人たちは近くの石切場から大きな原石を切り出してきて手ごろな大きさに割り出し、プロの石工の手を介せずに石を積んでいく。

丸みのある屋根面の仮枠組は、現場の棟梁が知恵をしぼってその工法を考え出した。

半割りの杉の辺材をたわめて両端を鉄線で引っ張り、自在な曲面が思うように調整できるようになった。

集落側の屋根面は、施主の友人の陶工が瓦を焼いて当人が自らその施工に当った。彼独自の考案によるコンクリートスラブ用の簡素な瓦である。風呂場など、水回りのタイルも彼の手によるものだ。

(掲載誌: 「新建築住宅特集」 1985年春号)

kogomi

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